品質の改善

品質改善について、経験上いろいろ言いたいこと

品質不祥事で品質保証担当者が行っていたこと

KYBで免振装置の検査データ書き換えが発覚しましたが、一部の記事で、検査担当者の

給与査定が合格数(出荷数?、検査数ではなく)に応じてなされていたのではないか、と言われています。 まだ詳細ははっきりしていないのですが、もしそうだとしたら、そういう評価はだめです。

 というのは、検査担当者の意識が「製品をできるだけ流そう」という方向へ向かって

しまうからです。本来の「合格品を流し、不合格品は止める」という当り前のことが

おろそかになってしまうからです。

 確かに、検査をしていると、合格基準ギリギリで、「おしい!」と思う製品も出て

きます。しかし、そこはクールに処理すべきなのです。

 そこで、余計なことを考えるのは、考えさせるシステム(検査員の査定に合格数

を加える)が悪いのです。

 というのは、私も過去に経験があるのですが、品質保証担当として、合格率を業務評価の一部として加えられたことがあります。これは、製造部からの要望として、加えられたと聞いています。

 理由として、品質保証担当者にも合格率に関心を持って貰いたい、ひいては合格率向上のために、品質保証担当者からも協力して欲しい(?、何らかのアドバイスがあればいただきたい)ということだと聞きました。一見、最もらしいのですが、検査する段階で、アドバイスがあったところで、打てる手はもうほとんどないのです。確かに、組み立て上、こうすればよかったのに、というアイデアも出なくはないのですが、そういう話をしても、組み立て担当者はとっくの昔に気が付いているのがほとんどでした。

 では、どうしてそうしなかったのかと言えば、スケジュール的にきつくて、改善する期間がなかったのだと。そうなると、品質保証としてできることは、次回製品の立ち上げ時に同じようなことが起こりそうな際に提案することくらいです。ただ、そういうことは、従来から行ってきたことで、ことさらに改善の手があるかといえば、無いわけです。

 結局、合格率向上ということで言えば、設計の質、製品の特性(生産しやすいか、しにくいとか)や、生産納期の状況などで、変動することが多く、検査段階で、何かできるかといえば、ほとんど無いわけです。そこをなんとか合格率を上げようとすれば、検査を甘くするしかないわけです。

 これはいけないことですが、抜き取り検査を行っていて、そのロットの内から無作為に20個抜き取って、19個が合格で、20個目が不合格になったとします。本来はこのロット(1ロット500個くらいのものとします)は不合格です。しかし、19個合格で20個目で初めて不合格でした。不合格ですが、惜しいレベル(合格に近い、世にだしても気づきにくいレベル)だったとします。そこで20個目を無視して、21個目を検査し、合格だったら、このロットを合格とする皮質保証担当も出てくるわけです。

 私は、さすがにこういったことは行いませんでしたが、こういったことを行って、合格率を上げて、見かけ上の成績を上げる人も出てくるわけです。これも大きな目で見た場合、お客様を裏切っているわけです。

 私は、個人的には、合格率向上に貢献することには大賛成です。しかし、それは検査に手心を加えることではなくて、もっと前段階で、設計検証とか、量産前段階で問題点を関係者で議論し、量産時までに問題点をつぶしておくことだと思います。製造や品質保証の管理職の方にそういうことを言うと、「いや、だからそうして欲しいんだ」という答えが返ってくるのですが、量産時の検査の時点で合格率を云々することは事実上、ほとんど不可能です。ルール違反以外は。

 本当は、唯一、検査後に、合格率を上げる手があるのですが(といっても、多少の時間はかかるのですが)、設計変更を行って、合格率を上げる方法が残されています。

 しかしながら、設計変更というのは、余計なコストがかかるものですし(設計部門、製造部門とも)、合格率を上げても、元が取れるのは、その後の製造期間が長く続くと思われる製品(そのあと、5年、10年と続ける製品)に限られます。

世の検査部門の管理職の方に、合格率に品質保証担当者の評価を関連付けることは、まずメリットは少ないということを認識していただいて、一度見直していただきたい事柄です。